個人山行・随想・研究

日本登山医学会

(管理者:注)
本会会員の南井英弘氏は「日本登山医学会シンポジウム(‘06年5月27〜28日 於:日本青年館)」に出席され、「特別意見」を求められた内容をよせて戴きました。氏は一登山者としてのみならず進歩・発展する登山医学の知識吸収に積極的姿勢で取り組まれています。以下、求めに応じ登壇してお話された内容を掲載します。


私はシンポジウム2で4人のパネリストが夫々話した後で、彼らと共に壇上に登り、コーディネーター貫田氏からパワーポイントで大写しにされた登山実績表を示しながら「登山実績から見て公募隊に何故入ったのか不思議です。どのような動機ですか。参加した感想は?」といった具合の問い掛けがありました。


「1961年母校山岳会ペルー・アンデス遠征に参加した。当時、外貨規制の厳しい中で煩わしい手続きなど在京ただ一人のOBとして携わりクラシックな海外遠征に出かけた経験を有している。

1970年代に数回ヨーロッパ・アルプスの高峰に登り、その後、昨年まで連続9年、11回目のヒマラヤ入りをしています。それも3年前までリーダーとして入山しました。1997年、‘98年、‘99年の3年間はBCより上部キャンプに全て自分たちで荷上げしています。

‘02年にムスターグ・アタに登頂した際に足指7本に凍傷を負いました。そんな事で‘03年には高所登山を諦めバルト氷河のトレッキングに行きました。コンコルディアからゴンドコロ峠越えで下山すべく同行の仲間とアリーン・キャンプまで来たところで仲間に突然高山病の兆候が現れてきました。口すぼめ呼吸を繰り返してもSPO2は50前後、バルトロ氷河を下るだけの食糧も持ちあわせていない。夕方からテントの中で起座呼吸(「座位」で口すぼめ呼吸=鼻から息を吸い、ゆっくり口笛を吹く要領で最後まで息を吐き出す=)を続けさせて、夜半、本人をハイポーターに担がせ、私が彼らの荷を背負い吹雪のゴンドコロ峠を越えました。途中、背負われた仲間は意識朦朧として(自らをコントロールできない)、虚脱状態になり背負われながら脱糞し最悪の事態になったと覚悟しましたが、何とか生きたままでスパンセールまで担ぎ下ろしました。夜中に夢遊病のようにテントを離れ、200m程先の流水の中にいるのを見つけ出し連れ戻しています。

こんな経験を含めて今までリーダーとして重責を務めていたので、出発前には入山申請、現地とのネゴ、装備・食糧の検討から購入など全ての準備に時間を取られ、やっとたどり着いた登山活動中は同行者の食欲、体調など、またガイドやポーター、ハイポーターの動きなどにも気を配り自分自身は100%山を楽しみ、山行を謳歌していない事に気が付きました。

ムスターグ・アタの頂上では「あと450mで8,000mだ!このまま斜面が続いておれば8,000mも夢ではない」と思いました。

JACの理事時代の10年以上前から大蔵喜福さんに「リタイアーしたら8,000mに連れて行ってください」と云っていましたが、2年前にやっとその時が来ました。そんな事で商業公募隊に申し込んだつもりではないのですが、結果は同じ、貴重な経験をさせていただきました。

自分はカラコルム(ブルダール、スコロ、ゴンドコロPK、ディル・ゴル・ゾム、スパンティーク、カラコルム経由でムスターグ・アタ、バルトロ氷河)に入り続けていましたので「ガッシャブルムU」を目標にしました。しかし、仲間を連れて行けば登山活動に集中できないし、一人で行けば登山料を一人で負担する事になるなど、8,000m峰にはなかなか手出しが出来ないところでした。公募隊のお陰で今までと違った登山ジャンルを体験し、視野を広める事もできました。詳しくは時間がありましたら後で詳しく述べさせていただきます。

私にとっては「道場破り」の様なものでしたが、公募隊の運営、サービスのノーハウを学び、参加者のレベルの高さなどに感動するばかりでした。また、町の山岳会や職場の山岳会で長年鍛えてこられた皆さんの強い事に驚き、お山の大将になりがちなところをガツーンと叩かれた気もしました。

また、私は知識欲も旺盛で、この20年余の間、首都圏で開催された「登山医学シンポジウム」には毎回聴講させていただき、お世話になってきました。ご指導いただきました先生方にお礼を申しあげます。何か私の経験がお役に立てば幸いです。

なお、高所散歩といった言葉が公募隊登山の代名詞のように話されていることがありますが、登山現場は厳しく、散歩気分で高所を目指す公募隊への参加は危険です。公募といえども高所に登るのですから、十分に鍛えた体で本格的な登山をする覚悟で出かけて欲しいと思います。」

【‘06年登山医学会概略】

1981年に発足した日本登山医学研究会が‘05年から日本登山医学会と改名されたものです。今回のシンポジウムの3つの大きなテーマは「アジアの登山医学」、「旅行医学から見た登山医学」、「ヒマラヤ公募登山」であり、その他に特別講演6点、一般研究発表は総計23点、ランチョン・セミナー1点と盛り沢山の内容であった。

以下時系列的に内容を簡潔に纏めました。

【5月27日】

9:55AM、開会時間かっきりに会長の簡単な挨拶。

一般演題A。座長:山本正嘉鹿屋体育大学
A−1 高地適応に関する免疫調査とACE遺伝子多型の関与
A−2 携帯型低酸素トレーニング器の効果
A−3 1日12時間の間歇的低酸素暴露
A−4 呼吸法・姿勢等とSPO2
A−5 息こらえ時間と呼吸化学感受性

一般演題B。座長:高山守正日本医科大学
B−1 奥穂高岳登山での高山病症状
B−2 急性虫垂炎、下山後手術で救命出来ず
B−3 山岳耐久レース中,心肺停止、AEDで救命。
B−4 中高年登山者の登山過程がSPO2に及ぼす影響

特別講演1。アジアの登山医学全体を見渡す。座長:中島道郎AACK
1−1 Silver Hutの実験から21世紀へ(James S. Milledge ISMM会長)
1−2 チベット高地人の心臓病(Ge Ri-Li 高所医学センター、中国)
1−3 高所での神経学(Buddha Basnyat ペリチェ救護所など)

ランチョン・セミナー。座長:神尾重則落合クリニック。
AEDの山での使い方(高山守正日本医科大学)

日本登山医学会奨励賞受賞講演
低圧低酸素、常圧低酸素での呼吸循環応答(前川剛輝国立スポーツ科学)

シンポジウム1。トラベルメディスンから見た登山医学。
航空機旅行と登山医学(大越裕文。JAL)
高所(山岳)旅行業者が求めたい事(黒川恵。旅行業ツアー登山協議会長)
信頼できる登山医学検診医ネットワークの構築(堀井昌子、同委員)
トラベルクリニックネットワークの現状(浜田篤郎海外勤務健康管理センター)

一般演題C。座長:松林公蔵京大
C−1 高所環境における肥満治療の研究
C−2 携帯型呼吸代謝測定装置、上下、体重、ザック重量
C−3 同上装置での測定、8時間登山時
C−4 水分摂取量と登山時の血圧

一般演題D。座長:内藤広郎みやぎ県南中核病院
D−1 日英における山岳遭難事故の特徴
D−2 引率登山への適応を考慮したPLP法
D−3 山岳地で見られる情緒不安定の今昔
D−4 クライマーにおける手指の変形について

特別報告。座長:浅野勝己筑波大学
NPO『富士山測候所を活用する会』の活動経過報告と提案概要(土器屋由紀子江戸川大学)

シンポジウム2.公募式ヒマラヤGiants登山の功罪
コーディネーター:貫田宗男JAC海外委員長
ヒマラヤ登山の大変革:山岳ジャーナリスト江本嘉伸
ヒマラヤ登山の大衆化と公募登山:高所山岳ガイド大蔵喜福
ヒマラヤ公募登山のもたらしたもの:元「岩と雪」編集長池田常道
医学的見地から公募隊:ヒマラヤ救助協会Buddha Basnyat

☆意見を求められた特別発言者:近藤和美、南井英弘、倉岡裕之
懇親会(1時間半遅れの夜8時半から開始、昼食時も弁当を食べながらの聴講で皆さんお疲れそのもの)

【5月28日】

一般演題E。座長:久保恵嗣信州大学
E−1、南極における高所への移動方法の違いによる呼吸循環状態比較
E−2、エベレスト周辺の自然放射線測定
E−3、富士山頂での酸素濃縮器使用経験
E−4、低圧低酸素下における内耳機能への影響
E−5、雪洞内で保温下着が心拍数、直腸温に及ぼす影響
E−6、脊髄損傷治療

特別講演2.座長:堀井昌子JAC医療委
人類の移動と拡散;厳冬の極北への適応(冒険家、関野吉晴)

特別講演3.座長:斉藤繁群馬大学
冬季北アルプス、ワンディ滑降(早川康浩、金沢市・開業医)

正午過ぎに閉会
毎年のことですが凄く盛りだくさんの内容で小便休憩も殆どなし。皆さん熱心なのには驚きです。

以下参考

特別講演「アジアの登山医学」の1−1では1960〜61年にかけてアマダブラム中腹の5800mにSilver Hutを建設し、厳冬期のヒマラヤ高所の越冬研究を実行したDr. James S. Milledge(国際登山医学会会長、ヒマラヤ高所登山経験豊富)が最新の高所医学の動きについて語った。

実感した諸々の点について,近藤、倉岡両氏の発言後に再度話す予定でしたが、時間切れで中途半端に終わっています。

私の実感した諸点とはJAC会報‘04年12月号P.15〜16に掲載された「シシャパンマ中央峰登頂と商業登山」に書いた内容を皆さんに話すつもりでした。

特別講演3の冬季北アルプスワンディ滑降とは「日帰りスキー」のことです。ドクター早川康浩は今シーズン既に45回実施している。しかも、槍ヶ岳3回、剣岳、五竜岳、涸沢岳、笠ケ岳、霞澤岳、西穂高など、信じられないことをやっています。

以上

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